東京電力は福島第一原発にトリチウムやウラン235以外の放射性物質を汚染水を分離する多核種除去設備(ALPS)3系列の試験運転を始めています(1)。そこで多核種除去設備(ALPS)について纏めてみました。
1.多核種除去設備(ALPS)の役割
多核種除去設備(ALPS)はAdvanced Liquid Processing Systemの略語で、トリチウムやウラン235以外の62種類の放射性物質を汚染水を分離する装置です(1)(2)。以下に福島第一原発の汚染水の処理系を記載します。

福島第一原発やその周辺に降った雨は地下水となり原子炉・タービン建屋に侵入します。ほっておくと溢れて流れ出るので、これを汲み上げます(3)(5)。ただ建屋内にはメルトダウンで核燃料が溶け落ちてできた「デブリ」があり(6)(7)、地下水を酷く汚染します。

※(8)に加筆
図―2 福島第一原発1号機のデブリ
そこでセシウム吸着装置に送られ、汚染水とセシウムが分離されます(3)(9)。セシウムが無くなるわけではありません。汚染水から分離されたセシウムは別に保管されます(3)(9)。次に淡水化装置に送られ、原子炉冷却に必要な「水」が取り出され、この水は原子炉に再びもどされます(3)(10)。残った汚染水は放射性物質濃度が高くなり「濃縮塩水タンク」に送られます(4)(10)。この水にはストロンチウム90で代表される全ベータ(11)等が高濃度で含まれています(12)。次に汚染水は多核種除去設備(ALPS)に送られ、トリチウムやウラン235を含まない62種類の放射性物質と汚染水が分離され、汚染水は処理水タンクに分離された放射性物質は別に保管します。
以下に福島第一の汚染水の流れの平面図を示します。

※(3)(13)(15)およびgoogle mapで作成
図ー3 汚染水処理系平面図
※1 原子炉やタービンより山側の地下水からも放射性物質が見つかっているので(16)、福島第一原発に侵入した地下水は原子炉やタービン建屋に入る前に汚染水になっています
2.多核種除去設備(ALPS)の種類と構造
福島第一原発には3種類のALPSがあります。
①いわゆるALPS:最初に作られた設備で度々、トラブルを起こしている(17)(18)。
②増設ALPS:いわゆるALPSを改良したALPS(19)。
③高性能ALPS:国が中心に進めているALPS、(=^・^=)の納めた税金も使われています(20)。
以下にALPSの構造を示します。

※(21)を引用
図―4 多核種除去設備(ALPS)の概要
多核種除去設備(ALPS)の基本原理は放射性物質を吸着する「薬剤」と汚染水を混ぜて、汚染水中の放射性物質を吸着させて、「薬剤と共に放射性物質を回収しようとするものです。回収の方法は1段目が図―4に示すように沈殿を促進する「薬剤」をいれ、沈殿で回収します(共沈法(22))。以下に2段目の「薬剤」の回収方法をしめします。

※(23)を転載
図―5 多核種除去設備(ALPS)の後段
ここではスラリーと東電が呼んでいる粉(24)を装置内を循環させて汚染水内の放射性物質をスラリーに吸収させます(23)(24)。次にフィルターを通し「水分」だけを外に取り出します。フィルターは「スラリー(粉)」を通してはいけないので、かなりの気密性を要します。当初はテフロンを使っていました(18)(25)。ところがテフロンは放射線により「劣化」することが知られています(26)。

※(26)を抜粋
図―6 放射線で劣化するテフロン
使っている内にテフロンは劣化し壊れてしまいました。

※(25)を抜粋
図―7 テフロン部分が欠け落ちたフィルター
そこでフィルターの材料をテフロンから別の材料に換えたそうです。
また放射性物質を吸収したスラリー(粉)の回収も必要です。そのために、汚染水を逆方法に回し回収容器に入れます(23)。すると後ろと前から圧力が交互に加わり、変形を繰り返します。このような変形の繰り返しは材料に「疲労」を与え破壊に至る危険があるみたいです(23)(28)。少し古い話でしが1985年に日本航空のB747型ジェット機が離陸・着陸を繰り返している内に、機体に金属疲労が蓄積し、最後は上空で「破壊」し墜落事故を起こした例があります(28)。同じように多核種除去設備(ALPS)のフィルター部分に「疲労」が溜り壊れてしまいました(23)。

※(23)を転載
図―8 隙間ができたガスケット
(=^・^=)が知る限り、この問題の設計的な解決策は示されていません。
3.多核種除去設備(ALPS)の廃棄物はどうなるか?
多核種除去設備(ALPS)の最大の問題は処理した汚染水も、汚染水から分離された放射性廃棄物もその行先が決まっていないことだと(=^・^=)は思います。東電は汚染水に増加を抑える対策を実施していると主張しています(28)。このうち、地下水バイパスは実施してはら半年が経過し(29)、と路面を舗装し雨が降っても地下に浸み込まず汚染水にならないようとするフェー
シングもだいぶ進んだと主張しています(30)。でも汚染水増加が止まる気配が感じられません。

※(29)を転載
図―9 福島第一原発の汚染水増加量推移
東京電力は凍土壁にも期待を掛けているようですが(30)、実現性には大いに疑問があります(31)。いづれ多核種除去設備(ALPS)で処理した「汚染水」の処分を検討せざるを得なくなると思います。
汚染水から取り出した放射性物質をどうするかも問題だと思います。多分、引き取りてがいないので福島第一原発内に、セシウム吸着装置で回収されたセシウムと共に永遠に放置されると思います。
<余談>
多核種除去設備(ALPS)で処理した汚染水はどうするかと言えば、最後は福島の「海」に捨てるしかなくなると思います。以下に福島第一原発の汚染水のトリチウム濃度の推移を示します。

※(32)を集計
図―10 福島第一原発汚染水のトリチウム濃度推移
概ね1年で半分に低下しています。これは原子炉やタービン建屋に流れ込む「水」で薄められる為と思います。あと4年たてば周辺監視区域の外側の境界における水中の放射性物質の濃度が定められてい告示限度(33)の1リットル当たり3万ベクレル(34)を下回るので、排出できると思います。そして排水が完了するまで(=^・^=)は安全かどうか分からないので(35)、
「行かない」「買わない」「食べない」
のフクシマ3原則を堅守します。
―参考にさせていただいたサイト様および引用した過去の記事―
(1)
多核種除去設備|東京電力(2)
アルプス - Wikipedia(3)
原子炉の安定化|東京電力(4)
プレスリリース|東京電力(5)(4)中の「福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について 」
(6)
福島復興に向けた技術を開発する | 日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所(7)
福島第一原子力発電所の基本データ集 | 燃料デブリ取出し代替工法に関する提案公募(RFP)(8)(7)中の「、燃料デブリを模擬した材料(模擬デブリ)の硬さに関してはこちらの22ページを参照」
(9)
サリー (機械) - Wikipedia(10)
めげ猫「タマ」の日記 福島第一原発の淡水化装置について(11)
めげ猫「タマ」の日記 全ベータはストロンチウム90由来の放射性物質(12)
多核種除去設備(ALPS) 確証試験及び設備設計の状況(13)
福島第一原子力発電所の現況|東京電力中の「滞留水処理・貯蔵状況」
(14)
中長期ロードマップ|東京電力(15)(14)中の「中長期ロードマップの進捗状況⇒2014年10月30日(廃炉・汚染水対策チーム会合 第11回事務局会議)⇒【資料2】中長期ロードマップ進捗状況(概要版)(5.82MB)」
(16)
めげ猫「タマ」の日記 福島第一原発汚染水(11月1週)―2号機原子炉建屋近くの井戸から377万ベクレルのセシウム―(17)
めげ猫「タマ」の日記 トラブルいっぱい福島原発(10月4週)―結線が外れていました!どうして―(18)
【資料】増設多核種除去設備の進捗状況および不具合への対策について(PDF 307KB)PDF(平成26年9月11日)(19)(14)中の「中長期ロードマップの進捗状況⇒2014年10月30日(廃炉・汚染水対策チーム会合 第11回事務局会議)⇒【資料3-2】滞留水処理(5.44MB)」【資料3-2】滞留水処理(5.44MB)
(20)
福島第一原子力発電所における汚染水対策(METI/経済産業省)中の「高性能多核種除去設備タスクフォース」
(21)
多核種除去設備|東京電力(22)
共沈法 - Wikipedia(23)
めげ猫「タマ」の日記 トラブルいっぱい福島原発(10月4週)―結線が外れていました!どうして―(24)
2014年10月22日福島一原子力発電所多核種除去設備B系統処理再開について(PDF 180KB) (25)
多核種除去設備について(PDF 1.98MB) - 東京電力(26)
PDFダウンロード (1479KB) - ダイキン工業(27)
金属疲労について(28)
汚染水対策|東京電力(29)
めげ猫「タマ」の日記 地下水バイパス稼働半年―いまだ効果見えず―(30)(14)中の「廃炉・汚染水対策現地調整会議⇒2014年10月27日(第14回)⇒【資料2】現地調整会議で提示された課題への対応の検討状況(9.79MB)」
(31)
めげ猫「タマ」の日記 福島第一原発の凍土壁は税金の無駄遣い?(32)
報道配布資料|東京電力中の「水処理設備の放射能濃度測定結果」
(33)
旧組織からの情報-原子力安全・保安院 > 告示濃度限度|原子力規制委員会(34)
地下水バイパスの排水基準について - 東京電力(35)
めげ猫「タマ」の日記 トリチウムは危険・安全?
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- 2014/11/06(木) 19:41:59|
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