東京電力福島原発はトラブルが多く、トラブル毎に記事にするは面倒なので、まとめて記事にしています。先週につづき(1)、8月3週(8月14日から8月20日)もしっかりトラブルが起こっています。
①凍土壁 規制委「効果見られず」
②ALPS停止
③下請けさんの白血病は2人目
④雨漏り
⑤ダストモニタは「警報レベル」寸前
1.凍土壁 規制委「効果見られず」
凍土壁は福島第一原発の原子炉やタービン建屋の回りを氷の壁で囲い汚染水の増加を抑えようとするものです(2)。福島第一では凍土壁に先立ち、海岸に水を通さない「壁」を作り海岸から海への汚染水の防止する「海側遮水壁」を完成させました(3)。それまでは「海」に流れていた汚染水が「海側遮水壁」の内側に溜まり放置すると溢れるので、これを汲みあげています(4)。汲み上げた汚染水は「海」へな流せず現状ではタービン建屋に送っています(6)。そこでタービン建屋と海側遮水壁の間に氷の壁(凍土壁)を作りタービン建屋側から海側遮水壁への汚染水の流れを阻止し、汚染水増加量を抑える試みがなされています(7)。

※(8)とGoogle Mapで作成
図-1 凍土壁と海側遮水壁の配置
当初の見込みでは凍土壁は一ヶ月半程度で効果が出てくるとされていました(9)。3月31日に凍結が始まったので(7)なので、効果が出ていなければならない時期を大幅に過ぎました。
7月18日に原子力規制委員会第45回特定原子力施設監視・評価検討会 が開催されました(9)。その中で、海側遮水壁等から汲み上げる汚染水量が報告されました(10)。以下に示します。

※1(10)を編集
※2 図中の数値は月平均の1日当たりの汲み上げ量
図―2 海側遮水壁等から汲み上げる汚染水量
汲み上げ量は凍土壁をすり抜けて海に流れた汚染水量を示すものですが、減っている気配がありません。凍土壁凍結開始直前の2016年3月が1日当たり267トンですが、7月は345トンで逆に増えています。原子力規制委の議論(11)を聞いていると、効果が見られないようです。これを受けて「<福島第1>遮水壁 規制委「効果見られず」」との報道もなされています(12)。これについて東京電力は
「陸側遮水壁の海側については、凍結運転開始以降、現時点で地中計測点の約99%が0℃を下回る一方、残りの約1%の箇所については、補助工法を適用し、遮水壁の造成を進めているところです。」
と反論していますが、まったく的を得ないものです。
凍土壁の両側には地下水位を観測する井戸RWとCoが設けられています。以下に東京電力が「海1-①」と呼んでいる場所のSD(サブドレン),RW,Coおよび地中温度の観測点の水平位置を示します。

※(8)にて作成
図―3 海1-①付近の配置
流量は落差に依存し、落差が大きいと大きく、小さいと小さくなります。そして落差が無くなれば水は流れなくなります(14)。凍土壁から漏れ出た地下水は海側遮水壁の内側に到達します。以下に海側遮水壁内側と海1-①付近の凍土壁近辺の地下水位を示します。

※1(8)(15)にて作成
※2「海側遮水壁内側」の色違いは観測点の差による
図―4 海側遮水壁内側と海1-①付近の凍土壁近辺の地下水位
図に示す通り海側遮水壁内側と海1-①付近の観測点のうち、海側遮水壁側にあるCo-15の水位差は縮まっていません。凍土壁凍結開始後も汚染水は凍土壁をする抜け海に流れ続けています。
以下に海1-①付近の地下の温度部分布を示します。

※1(8)にて作成
※2 出典がOPで記載しているが、(=^・^=)がTPに換算
図―5 海1-①地下の温度分布
図に示す通り水位観測点Co15の北側の海抜0~3m付近(地下-9m)に0℃を超える「大穴」が開いています。図―4との比較すれば丁度、この辺りは凍土壁海側の地下水位と同じです。図―4に示す様に凍土壁によって山側の地下水位が上昇しました。これによって水を流す圧力が増し、大穴の当たりではそれなりの流速で水が流れているはずです。流れる水は凍りません(16)。凍土壁によって水の流れを悪くしても、山側の地下水位が上がるだけで弱い部分に流れが集中し、流速が早くなるので、結果として流用は変りません。これではここから地下水が流れ出し、遮水(水の流れを遮る)効果はでません。東京電力は「地中計測点の約99%が0℃を下回る」と主張していますが、残り1%に早い流れが生じ何の効果もありません。100%凍らいと効果は出ません。
2.ALPS停止
福島第一では地下水の流入(17)や建屋の雨漏り(18)、あるいは海側遮水壁の内側に溜まった汚染水を汲みあげタービン建屋に戻すなどして(6)(19)、日々、汚染水量が増えています。

※(20)を集計
図―6 日々、増え続ける福島第一原発汚染水
放置すると溢れてしまうので、タービン建屋から汚染水を汲みあげ
タービン建屋⇒SARRY⇒淡水化装置⇒ALPS⇒処理水タンク
の順で汚染水を処理しています。最終段の処理装置はALPSになります。以下に週別のALPSの処理量を示します。

※(20)を集計
図―7 週毎のALPS処理量
図に示す通りこれまでは、週当たり3000トン弱を処理していたのですが、今週は878トンでした(21)。事実上の「停止」です。ALPSには多核種除去設備、増設多核種除去設備、高性能多核種除去設備等の複数の装置があり(22)、メンテナンスで止まることはありません。
最終段の処理水タンクについて
満水率=汚染水量÷タンク容量
で、「満水率」を規定しその推移を示します。

※(20)を集計
図―8 処理水タンクの満水率
図に示す通り98%を超える状態が続いています。液体のタンクでは容器内の液体が地震などで外部からの比較的長周期な振動によって揺動すると(スロッシング)、この揺動により、構造が破壊されたり、液体が容器から溢れ出ることがあります(22)。福島第一は度々、地震に襲われています(23)。タンクを満タンにするわけには行きません。この辺りが限界だと思います。
福島第一では汚染水タンクに余裕が無く、タンクの増設が止まれば汚染水処理も止まってしまう状態が続いています。そして今週はタンクの増設が止まり、汚染水処理も止まってしまいました。
3.下請けさんの白血病は2人目
東京電力福島第一原発事故後の作業で被曝(ひばく)した後に白血病になった50代男性の元下請けさんが、労災を認定されました。二人目です。認定された下請けさんの被ばく線量は54.4ミリシーベルトとのことです(24)。下請けさんは2015年1月まで福島第一原発で作業されていたとのことですが(24)、2015年1月時点で福島第一で50ミリシーベルト以上の被ばくをされた方は東京電力の発表(25)を集計すると東電社員様を含め2,255人です。2,255人に1人、すなわち10万人当たり44人です。1997年の日本の統計では全白血病の発症率は年間に男性で10万人あたり7人ですので(26)、かなり高い割合です。ただし一人ですので統計的な差があるとは言えません。かなり黒に近いグレーだと思います。今後も出て来ると思うので時間が経てばはっきりすると思います。
福島第一原発の廃炉作業では下請けさんが、被ばくして白血病になる可能性が否定できません。福島第一の廃炉作業で働く下請けさんには無用な被ばくを避け、安全に廃炉作業を進めていただきたいと思います。
4.雨漏り
報道によると
「東京電力の福島第1原発2号機建屋で8月17日、漏えい検知器が作動した。雨水が流入した影響とみらる」
との事です(18)。雨漏りしたようです。本件は東京電力の日報には掲載されておらず(28)(29)(30)(31)には掲載されておらず、東京電力は「雨漏り」隠しを始めたようです。
5.ダストモニタは「警報レベル」寸前
福島第一では今年(2016年)に
①1月13日 MP-7付近のダストモニタが警報発生、風向きは南南東(32)(33)。
②6月1日 MP-2付近のダストモニタが警報発生、東京電力推定原因は機器の故障、風向きは西(34)。
③7月3日 MP-8付近のダストモニタが警報発生、東京電力推定原因はウラン238生成物のビスマス214、風向きは南南西(35)。
④8月2日 MP-8付近のダストモニタが警報発生、ウラン238生成物の鉛214が見つかる。1回目の警報時の風向きは南東(36)(37)。
これについて(=^・^=)はウラン238からの生成物が原因と考えています。すなわち、福島原発事故によって核燃料に含まれるウラン238がムキ出しになり、環境中にウラン238からの生成物が溜まるようになり空気中の放射性物質濃度が上昇し警報が発生し易くなったとの推定です(38)。この推定に従えは警報発生レベルまで行かなくても、高濃度の放射性のダストが見つかるようになるはずです。以下に今週の空気中の放射性物質濃度を示します。

※(39)を編集
図―9 8月3週のダストモニタ観測値
図に示す様に1立方メートル当たりで
8月18日 6ベクレル超
8月19日 5ベクレル超
の放射性のダストが観測されています。柏崎刈羽では高くても1立方メートル当たり3ベクレルなので(36)、高い値です。福島第一は天然の放射性物質では説明困難なレベルの放射性ダストに覆われています。そしてウラン238からの生成物はこれからも増えて行きます(38)。
<余談>
図表が小さいとご不満の方はこちら、図表をクリックしてください。
福島県の地方紙の福島民友は原子力規制委が凍土壁について規制委「効果見られず」と指摘した事について、「『今後、さらに効果現れる』 東京電力、凍土遮水壁巡り見解」との表題で「凍土壁の造成は遅れながらも進んでいるという。」との東京電力の見解を報じていました。原子力規制委と東京電力との「議論」を見てもらえばわかると思いますが(11)、東京電力の説明は苦しい物があり「破綻」しています。福島のマスコミはそれでも東京電力の主張を無批判に報じています。まるで東京電力の機関誌です。これでは福島の皆様は不安だと思います。
今日、買い物に行ったらスーパーに福島産ピーマンが並んでいました。不愉快でした。福島を代表する夏野菜にピーマンがあります(39)。福島県は福島産野菜のテレビCMを流しています(40)。(=^・^=)の住む街のスーパーに並ぶくらいですから、福島はピーマンの季節です。福島のピーマンは生食でも味わい良く、加熱すると柔らかくなり、独特のにおいも和らぐ風味の良いピーマンだそうです(39)。福島県は福島産ピーマンは「安全」だと主張しています(41)。当該のスーパーは福島県内にも店舗を展開していますが、福島県内向けのチラシのピーマンは福島産ではありません。当然の事です。

※(42)を引用
図―10 福島産ピーマンが無い福島県福島市のスーパーのチラシ
このスーパーは全国展開しています。福島産ピーマンを見かけたら福島県内の店舗では他県産をチラシに載せていることを思い出してください。当然ながら、(=^・^=)は福島県福島市の皆様も見習い「フクシマ産」は食べません。
―参考にしたサイト様および引用した過去の記事―
(1)
めげ猫「タマ」の日記 トラブルいっぱい福島原発(8月2週)―焼却炉が停止―(2)
陸側遮水壁|東京電力(3)
海側遮水壁|東京電力(4)
サブドレン・地下水ドレンによる地下水のくみ上げ|東京電力(5)
報道配布資料|東京電力(6)(5)中の「建屋への地下水ドレン移送量・地下水流入量等の推移 」
(7)
2016年3月31日 福島第一原子力発電所 陸側遮水壁の凍結運転開始についてPDF(8)
2016年8月18日陸側遮水壁の状況(第一段階 フェーズ2)(PDF 5.89MB) (9)
第45回特定原子力施設監視・評価検討会 | 原子力規制委員会(10)(9)中の「資料4-1:陸側遮水壁の状況[東京電力]【PDF:1MB】」(
http://www.nsr.go.jp/data/000161042.pdf)
(11)(9)中の「会議映像 YouTube」(
https://www.youtube.com/watch?v=UBoN064wLcY)
(12)
<福島第1>遮水壁 規制委「効果見られず」 河北新報(13)
福島第一原子力発電所 陸側遮水壁の凍結状況に関する報道について|お知らせ|東京電力ホールディングス株式会社(14)
水力発電所の出力と有効落差の関係(15)
中長期ロードマップ|東京電力中の「中長期ロードマップの進捗状況」⇒「2016年7月28日(廃炉・汚染水対策チーム会合 第32回事務局会議)」⇒「【資料3-1】汚染水対策(31.5MB)」(
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2016/images2/handouts_160812_03-j.pdf)
(16)
0℃でも凍らない水(17)
原子炉の安定化|東京電力(18)
福島第1原発冷却設備一部切り替え 18日から1~3号機燃料プール:福島民友ニュース:福島民友新聞社 みんゆうNet(19)
サブドレン・地下水ドレンによる地下水のくみ上げ|東京電力(20)
プレスリリース|リリース・お知らせ一覧|東京電力ホールディングス株式会社中の「福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について」
(21)
福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第266報)|プレスリリース|東京電力ホールディングス株式会社(22)
スロッシング - Wikipedia(23)
2016年8月15日地震情報(福島第一・福島第二原子力発電所関連)(続報)|報道関係各位一斉メール|東京電力ホールディングス株式会社(24)
原発事故後の被曝で労災認定、2人目 元作業員が白血病:朝日新聞デジタル(25)
原発事故後の被曝で労災認定、2人目 元作業員が白血病:朝日新聞デジタル(26)
福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について|東京電力(27)
白血病 - Wikipedia(28)
2016年08月18日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】(29)
2016年08月19日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (30)
2016年8月18日福島第一原子力発電所の状況(記者会見資料)(PDF 21.4KB) (31)
2016年8月19日福島第一原子力発電所の状況(記者会見資料)(PDF 19.7KB)(32)
福島第一原子力発電所の状況について(日報)|福島原子力事故に関する更新|東京電力ホールディングス株式会社(33)
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