福島県の地方紙・福島民友は「甲状腺がん、線量関連なし 福島医大、震災後4年間の有病率分析」との表題であたかも、甲状腺がんと福島原発事故との関連は「無い」とも取れる報道していた。ただ記事本文を読むと「地域による違いは
見られなかった」であり(1)、単に現段階では統計的な差がないとしているだけである。
チェルノブイリ原発事故後に明らかになった健康被害として、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんがあります(2)。
福島県では、東京電力福島第一原発事故を踏まえ、子どもたちの健康を長期に見守るために、甲状腺(超音波)検査を実施しています(3)。当初の見込みは100万人に1,2名の想定でしたが(4)、最新の結果(5)では
約30万人を検査して173名
の悪性ないし悪性の疑いの方が見つかっています。およそ1万に5、6人と当初の想定に比べ極めて高い割合です。

※(3)を集計
図―1 どんどん増える福島の甲状腺癌
これについて福島原発事故の為とも(6)、そうでないとも主張があります(7)。現時点の公式見解は
「事故当時5 歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくいと評価する。」
です(8)。
甲状線検査は「先行調査」と「本格調査」の2段構えで実施されています(5)。先行調査は福島県を3つに分け、2011年度から13年度で実施されています。

※1(9)の数値データを元に(10)に示す手法で9月1日時点に換算
※2 避難区域は(11)による
※3 区分は(5)による。
※4 原資料(5)は「平成」で記載されているが、西暦に変更
図-2 福島甲状せん・先行調査の区分
図に示す通り概ね放射線量が高い場所を優先して実施しています。
福島県の地方紙の福島民報はこれについて「甲状腺がん、線量関連なし 福島医大、震災後4年間の有病率分析」との記事を掲載し(1)、あたかも福島原発事故ととは関連が無かったような見出しで報じています。

※(12)を引用
図―3 「甲状腺がん、線量関連なし」と報じる福島県の地方紙・福島民報
ところが本文を読むと地域による違いは
見られなかった」であり(1)、単に現段階では統計的な差がないとしているだけです。
統計的な差すなわち有意差とは偶然に起こる確率を計算して、その確率が5%未満なら統計的な差があるとし、以上なら差がないとするものです(13)。
「『有意差なし(非有意)』は『今回の標本数で検出できる差は、認められなかった』とするのが、常に正しい解釈となる。標本数がかなり多く、現実的に問題となる差を検出できる規模になっている場合に限り、『差が認められなかった』との解釈が許されるが、標本数が少ない場合は、『差があるのか無いのか、判定出来なかった』と解釈すべきである。」(14)
すなわち「見られなかった」(統計的な差はない)とは、「無い」との意味でなく「わからない」との意味です。
統計には解釈の問題がついて回ると思います。(=^・^=)は以前に「福島県飯館村では男の子が生まれ難い」との記事(15)、福島県飯舘村が被ばくが福島県最大であることと原発事故後女の子が多く生まれる事を紹介しました。この記事に対し
「非常に有意な差がある。ただ,このように p 値が小さくなる区間を事後的に探す行為は p-hacking といって,p 値としての意味はなくなる。また,差があるにしても,原因は放射線かストレスかそれ以外の何かかは不明である。」
とのご批判をいただきました(16)。ここでp値とはいばわ偶然に起こる確率です。要約すれば
・サンプリングの妥当か?
・「放射線量が高い」と結果が結びつくか?
です。ご判断は読者に任せるとして、あえて反論するなら
①飯舘村以外にも主な避難区域が旧計画的避難区域である全ての町村で同様の現象が起きている。
②事故から5年半経過した今も現象が継続している
でしょうか(17)。これは別にして統計的なものにはサンプリングや解釈の問題がつきまといます。
甲状腺がんの悪性ないし悪性の疑いの割合を纏めると
2011・12年調査 検査181,148人中 70人で0.039%
2013年調査 検査111,328人中 42人で0.035%
です(5)。殆ど差がありません。図-2に示すように福島県内では放射線量が高いと区分された地域で実施された2011・12年調査と低いとされた地域で実施された2013年調査に大きな差はないので、一見すれば福島民友の報道は正しいようですが、調査時期にずれがあります。2013年調査は後に行われているので、調査が遅れた分だけ患者数が増えている可能性があります。2011・12年調査地域は地域は2014年にも調査が行われ、この時に新たに48人の方が、悪性ないし悪性の疑いと診断されています。これを加えると
2011・12年調査 検査181,148人中 118人で0.065%
2013年調査 検査111,328人中 42人で0.035%
になります。こんな事が偶然に起こる確率を計算すると0.05%ですので、統計的な差はあります。ただし、検査期間が1年長いのでその結果として2011・12年調査の割合が高くなった事も否定できません。以下に偶然に起こる確率の計算結果を示します。
表―1 偶然に起こる確率の計算結果(2014年調査までの累計)
※1 データは(5)を集計
※2 計算方法は(18)による。

図―2に示す様に、2013年調査地域の中で須賀川市やいわき市では放射線量が高めです。そこで、2013年調査地域について須賀川市・いわき市とそれ以外の地域を集計してみました。これですと検査時期によるずれは要因になりません。
須賀川市・いわき市 検査61,511人中 28人で0.046%
上記以外2013年調査 検査57,817人中 14人で0.024%
です。差があるようにも見えます。の計算結果を示します。
表―2 偶然に起こる確率の計算結果(須賀川市・いわき市と他)
※1 データは(5)を集計
※2 計算方法は(18)による。

偶然に起こる確率は4.99%で一応は5%を未満となっており、慣習(13)に従えば「統計的に差あり」になりますが、ギリギリなので(=^・^=)は明言できません。
表―1.表ー2に示すようにサンプリングを変えれば「統計的な差」があるので、どう見ても黒に近いグレーです。これを福島民報は「甲状腺がん、線量関連なし 福島医大、震災後4年間の有病率分析」と、あたかも「白」のように報じています。
<余談>
図表が小さいとご不満の方はこちら、図表をクリックしてください。
福島の5年半を見ていると、統計的に差のな事(分からない事)は調査される事もなく、そのような科学的事実はないと「白」にされて来た気がします。そして甲状腺を同じです。福島県の地方紙・福島民友は今日(2016年9月12日)の社説で(19)、福島県の甲状腺検査について
「東日本大震災と原発事故から5年半となった。甲状腺検査を巡っては、事故当時18歳以下の全県民を対象に検査を続けることを望む意見と、希望者などに対象を縮小すべきとする意見が先月、県に提起された。県は県民健康調査検討委員会で慎重に議論を進め、県内の子どもたちにとって最善の検査体制を構築しなければならない。」
と述べ、縮小を主張しています。(=^・^=)には不味い結果でそうな検査は縮小するように主張しているように聞こえます。これでは福島の皆様は不安だと思います。
福島を代表する夏野菜にピーマンがあります(20)。福島県田村市は福島の主要なピーマン産地です。9月になりましたが、まだまだシーズンは続きます(21)。福島のピーマンは生食でも味わい良く、加熱すると柔らかくなり、独特のにおいも和らぐ風味がようそうです(20)。福島県は福島産ピーマンは「安全」だと主張いています(22)。でも福島県田村市のスーパーのチラシには福島産ピーマンはありません。

※(23)を引用
図―14 福島産ピーマンが無い福島県田村市のスーパーのチラシ
当然の結果です。(=^・^=)も福島県田村市の皆様を見習い「フクシマ産」は食べません。
―参考にしたサイト様および引用した過去の記事―
(1)
甲状腺がん、線量関連なし 福島医大、震災後4年間の有病率分析:福島民友ニュース:福島民友新聞社 みんゆうNet(2)
放射線被曝とがんとの関連性3 | トピックス | 日本臨床検査薬協会(3)
「県民健康調査」検討委員会 - 福島県ホームページ(4)
第3回「県民健康調査」検討委員会(平成23年7月24日開催) - 福島県ホームページ中の「当日配布資料 」
(5)
第23回福島県「県民健康調査」検討委員会(平成28年6月6日)の資料について - 福島県ホームページ(6)
福島原発事故「がん無関係」に反論 神戸の医師が論考発表 2015/7/25 07:02 神戸新聞(7)
福島県における小児甲状腺超音波検査について(8)
県民健康調査における中間取りまとめ - 福島県ホームページ(9)
航空機モニタリングによる空間線量率の測定結果 | 原子力規制委員会中の「福島県及びその近隣県における航空機モニタリング(平成27年9月12日~11月4日測定) 平成28年02月02日 (KMZ, CSV)」
(10)
めげ猫「タマ」の日記 半減期でしか下がらない福島の放射線(11)
区域見直し等について - 福島県ホームページ(12)
福島民友新聞社 みんゆうNet -福島県のニュース・スポーツ-を9月11日に閲覧
(13)
有意 - Wikipedia(14)
検定結果の解釈(15)
めげ猫「タマ」の日記 福島県飯館村では男の子が生まれ難い(2013年1月末集計)(16)
出生性比(17)
めげ猫「タマ」の日記 女の子が特異的に生まれる避難区域を抱える福島県川俣町(2016年7月)(18)
めげ猫「タマ」の日記 偶然に起こる確率の計算方法について(19)
【9月11日付社説】甲状腺がんと放射線/研究進め関連の有無立証を:社説:福島民友新聞社 みんゆうNet(20)
夏 | ふくしまの野菜 | JA全農福島(21)
福島県JAたむら&田村市トップセールス/東京青果株式会社(22)
安全が確認された農林水産物(公開用簡易資料) - 福島県ホームページ(23)
ヨークベニマル/お店ガイド
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- 2016/09/12(月) 19:45:17|
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