東京電力福島原発はトラブルが多く、トラブル毎に記事にするは面倒なので、まとめて記事にしています。先週につづき(1)、12月4週(12月18日から24日)もしっかりトラブルが起こっています。
図―1 福島第一トラブルマップ(12月4週)
①1号機原子炉格納容器ガス管理設備が止まる。
②ALPS止まる
③凍土壁水位差は縮小せず
④凍土壁液漏れ、一部区間で冷却不能に
⑤福島第一3号機、遮蔽すれども線量下がらず、核燃料取り出しは2018年4月以降
⑥2号機原子炉格納容器(PCV)内部調査で2週連続トラブル
⑦福島第一のデブリ冷却装置、保全計画は未策定
⑧福島第二、4度目の「廃炉決議」
1.1号機原子炉格納容器ガス管理設備が止まる。
福島第一の原子炉格納容器ガス管理設備は,原子炉格納容器内気体を抽気・ろ過等によって,外部への放射性物質漏れを抑えたり、再臨界の監視,水素濃度の監視をするために設けられた設備です(2)。
12月18日午前0時27分頃、1号機原子炉格納容器ガス管理設備の水素・酸素計ラック(A系)で「水素・酸素計ラック(A)サンプル流量低」警報がでました。A系の水素・酸素計ラックサンプルポンプのガス流量が測定できなくなったそうです。こもため、ガス流量の調整等を試みたがたのですが復旧しませんでした(3)。12月19日サンプルポンプの交換したら正常に戻りました(4)。ガスを送るポンプが壊れてしまったようです。
2.ALPS止まる
福島第一では日々汚染水が増え続けています。放置すると溢れるので、これを汲みあげ汚染水処理設備を通したあと汚染水タンクに保管しています。
※(5)を集計
図―2 増え続ける福島第一原発汚染水
東京電力の発表を(=^・^=)なりに集計すると約101万トンです。増える汚染水に合わせ汚染水タンクを作り続けなくてはならないのですが、タンクの増設が間に合わない場合は汚染水処理を止めることになります。汚染水処理の最終段は多核種除去設備(ALPS)です(6)。ALPSには多核種除去設備、増設多核種除去設備、高性能多核種除去設備がありますが(3)、今週の運転状況をしめします。
表―1 多核種除去設備等の運転状況
※1(3)(4)、(7)~(11)で作成
※2 APLSは多核種除去設備、増設は増設多核種除去設備、高性能は高性能多核種除去設備
※3 〇―運転中、×―停止
表に示す通り12月20から22日まで、3日間運転が全て停止しました。
3.凍土壁水位差は縮小せず
凍土壁は福島第一のタービンや原子炉建屋の回りを氷の壁で囲い地下水の流れを阻止し、汚染水の増加を抑止しようとするものです(12)。その第一段階として3月31日より海側の凍土壁の凍結を開始しています(13)。現在、海洋への汚染水流出を抑える為にタービン建屋の海側に海側遮水壁等の「壁」を作り海への汚染水の流れを阻止する試みがなされています。
※(12)を転載
図―4 サブドレン、凍土壁、地下水ドレン、海側遮水壁
放置すると溢れてしまうので、地下ドレンピット、ウエルポイントあるいは、汲み上げ車両(パキュームカー)で汲み上げています。これらの汲みあげは「4m盤」からの汲みあげと総称されています(15)。汚染水の増加を抑えるには海岸部(4m盤)からの汲みあげ量を減らす必要があります。東京電力は減らす対策として「凍土壁」に期待を寄せています(13)。ただし原子力規制委員会の議論を聞いていると(14)、効果に疑問の声が大勢です。
東京電力の会見を聞いていると(16)凍土壁は
①凍土壁では全てで0℃以下になっている。
②凍土壁の内と外で水位差がついている
ことを理由に「効果」があったとしています。おかしな主張です。流れる水は0℃ではこりません(17)。流量は水位差に依存します(18)。凍土壁の内と外で水位差がつけば、水が流れやすくなり凍土壁の遮水効果(水の流れを遮る効果)が出たといても差し引きゼロになる可能性があります。重要なのは凍土壁内の水位差と凍土壁の海側の外の水位差と海岸の水位差です。凍土壁内の水位差がなくれば凍土壁内の水の流が無くなったことになり、凍土壁内に外から地下水が流れ来なくなったことを意味します。凍土壁の海側の外の水位差と海岸の水位差がなくれば凍土壁側から海への流が無くなった事を意味します。凍土壁の効果は水位差が開くことで評価できず、水位差が無くなるか否かで評価すべきです。
福島第一では観測井戸を掘り地下水位を監視してます(19)。そのうちGi-4、RW-30の配置を示します。
※(19)にて作成
図―5 福島第一地下水位観測井戸の配置
図に示す通りGi-4とRW-30は共に凍土壁の内側にあります。ただしGi-4は山側にRW-30は海側です。凍土壁に効果があればGi-4とRW-30の水位差が無くなり、同じ水位になっているはずです。以下に水位を示します。
※(19)にて作成
図―6 Gi-4とRW-30の地下水位
凍土壁内でも山側に位置するGi-4と海側のRW-30の水位差は開いたままでGi-4(山側)からRW-30(海側)の地下水の流は止まっていません。図―1に示すように流れた地下水は出口が無いので海側の凍土壁を突き破り海へ流れていくはすです。
以下に凍土壁側と海岸部の平均水位を示します。
※(19)にて作成
図―7 凍土壁側と海岸部の平均水位
図に示す通り水位差はついたままです。凍土壁の海側から海岸部への汚染水の流れも止まっていません。結果として、海岸部から汲み上げる地下水の量もそれ程には変りません。以下に海岸部からの汲み上げ量の推移を示します。
※(19)にて作成
図―8 海岸部から汲み上げ量推移
以下に福島第一原発の降水量を示します。
※(20)にて作成
図―9 福島第一の降水量
図に示す通り今年3月と近々(12月)は少なくなっています。東京電力は海岸部の汲みあげが量が凍土壁凍結前は1日当たり192トンだったが最近は1日当たり155トンに減ったので効果があったと主張しています(19)。約二割減です。流量は水位差の平方根(√:数 a に対して、a = b
2 を満たす b を a の平方根と言う(21))に比例します(18)。図―7を見ると凍土壁海側と海岸部の水位差は図―7から見ると3分2程度になっています(3月3日時点78ピクセル、近々52ピクセル)。√(2÷3)≒0.8なので汲み上げ量の減少量と同じ値になります。流量を半分にするには水位差を4分の1にしなくてなりません。図―7を見る限り最近は水位差は均衡してるようも見えるので、ここまで下げるのは困難です。凍土壁はあまり効果を発揮していないようです。12月26日に原子力規制員会の「特定原子力施設監視・評価検討会」が開催されます(22)。そこで詳細な評価がなされると思います。次週にでも記事にしたいと思います。
4.凍土壁液漏れ、一部区間で冷却不能に
東京電力は12月22日に凍土壁の凍土遮水壁の配管の継ぎ目部分から冷却液(ブライン)が漏れているのが見つかったと発表しました。このため凍土壁の凍結が一部で止まったそうです(25)。以下に凍結が止まった場所を示します。
※(19)(25)にて作成
図―10 凍土壁凍結停止部分
東京電力は冷却が止まっても、十分に冷えているので氷の壁が溶ける事はないと説明しています。以下に凍結が止まった近くの地下水位観測井戸のCo-16等に地下水位を示します。
※(19)にて作成
図―11 凍結停止近くの地下水位
図に示すようにCo-16の地下水位は5m程度と高く、凍結停止部分にはそこそこの水圧がかかるはずです。このまま凍結が維持できるか心配です。以下に液漏れを越した配管部分を示します。
※(25)を引用・加筆
図―12 冷却液が漏れた配管部分
会見(16)を聞いていたら見つけたのはパトロールの方でも凍土壁の工事関係者でもない下請けさんだそうです。東京電力のパトロール能力って大丈夫ですかね。この件は12月19日に分かったのですが、発表したのは3日後の22日でした。
5.福島第一3号機、遮蔽すれども線量下がらず、核燃料取り出しは2018年4月以降
福島第一3号機では使用済み核燃料の取り出しに向け、遮蔽を実施しています(26)。遮蔽をしたのですが一部に放射線量の高い部分が残りました。
※(26)を引用加筆
図―13 3号機核燃料プールの放射線量
3号機の核燃料プールの燃料取り出しは、昨年6月に2018年3月までに開始すると発表されました(27)。報道によると2018年4月以降に連れ込むそうです(27)。報道によるとデブリ冷却設備等の重要設備の保全計画が作られていなかったそうです。
6.2号機原子炉格納容器(PCV)内部調査で2週連続トラブル
東京電力は2号機のデブリ取り出しの前段階として、2号機格納容器のX-6ペネと呼ばれる部分に、穴を明けそこから観察用ロボットを投入して中を観察しようとしています(29)。
※(29)を引用・加筆
図―14 2号機原子炉格納容器(PCV)内部調査用ロボット
設置が終わった後で点検したら、起こらないと想定していた「空気漏れ」が見つかかった事は先週にお伝えしました。今週は12月19日に装置(隔離機構ユニット)をX-6ペネに取付けたところ、クランプの⼀つが動作しなかったそうです(29)。
7.福島第一のデブリ冷却装置、保全計画は未策定
先々週の記事で福島第一で溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却が止まったことをお伝えしました(30)。報道によると福島第一原発1~3号機のデブリを冷却する装置や使用済み核燃料プールの一部配管など3つの重要設備で、東電が法律で義務付けられている保全計画を策定していなかったと発表したの重要設備についてメンテナンスを規定する「保全計画」が作らていなかったそうです(31)。
※(32)を12月22日に閲覧
図―15 第二廃炉決議・福島第一廃炉設備の保全計画が無いと報じる福島民報
デブリ冷却設備の配管は2011年の原発事故以降、一度も設備点検をしていなかったそうです。原子力規制庁も保全計画の未策定を見過ごしていたとの事です(31)。この設備の中には「ガス管理システム」も入っていますが(30)、1項で記載の通り確りトラぶっています。
原子力規制庁によると、東電は3つの設備周辺の空間放射線量が高く作業員が容易に近づけず、計画を策定していなかったとしている。規制庁は福島第一原発の現状を踏まえ、直ちに保安規定違反とはしない方針だが、保全計画の策定も含め現状把握ができる体制を講じるよう東電に求めているとの事です(31)。
事故から5年9ヶ月以上が過ぎましたが未だに放射線量が高くなかなか設備の点検ができないようです。
8.福島第二、4度目の「廃炉決議」
福島第一、第二のトラブルに福島県も怒っているようです。福島県議は12月定例県議会で12月21日、最終本会議を開き、東京電力福島第二原発の全基廃炉を強く求める意見書を全会一致で可決しました。全基廃炉を迫る意見書の可決は4度目です。近く安倍出戻り総理や関係閣僚、衆参両院議長らに送付するそうです(33)。
東京電力の幹部は福島復興本社の石崎芳行代表がインタビューで第二原発の廃炉について「第一原発廃炉の後方支援という役割がある。判断できない状況だ」との認識を示していますが(34)、県議会議長は「廃炉を検討していないかのよう感じられ大変遺憾だ。全基廃炉は県民の願い。しっかり取り組んでほしい」と要求したとの事です。
<余談>
図表が小さいとご不満の方はこちら、図表をクリックしてください。
トラブル続きの福島原発では福島の皆様は不安だと思います。
メリークリスマス。今日はクリスマスイブです。チキン料理を食べた方も多いと思います。福島県が力をいれている農畜産物に鶏肉(地鶏)があります。福島県の会津地方も産地の一つです(35)。福島県は福島産鶏肉は安全だと主張しています(36)。でも福島県会津若松市のスーパーのチラシには福島産鶏肉はありません。
※(37)を引用
図―16 福島産鶏肉が無い福島県会津若松市のスーパーのチラシ
当然の結果です。(=^・^=)も福島県会津若松市の皆様を見習い「フクシマ産」は食べません。
―参考にしたサイト様および引用した過去の記事―
(1)
めげ猫「タマ」の日記 トラブルいっぱい福島原発(12月3週)―東電社員様も甲状腺癌― (2)
2.8. 原子炉格納容器ガス管理設備 | 原子力規制委員会 中の「
2.8. 原子炉格納容器ガス管理設備【PDF:631KB】許可日:平成27年08月12日(水) 」
(3)
2016年12月19日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (4)
2016年12月20日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (5)
プレスリリース|リリース・お知らせ一覧|東京電力ホールディングス株式会社 中の「福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について」
(6)
原子炉の安定化|東京電力 (7)
2016年12月18日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (8)
2016年12月21日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (9)
2016年12月22日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (10)
2016年12月23日福島第一原子力発電所の状況について(日報)【午後3時現在】 (11)
2016年12月24日福島第一原子力発電所の状況につい(日報)【午後3時現在】 (12)
めげ猫「タマ」の日記 凍土壁が失敗した訳 (13)
2016年3月31日 福島第一原子力発電所 陸側遮水壁の凍結運転開始についてPDF (14)
第47回特定原子力施設監視・評価検討会 | 原子力規制委員会 (15)(16)中の「
資料3:陸側遮水壁(山側)の一部閉合[東京電力]【PDF:2MB】 」
(16)
2016/12/22(木) 中長期ロードマップ進捗状況について (17)
0℃でも凍らない水 (18)
水力発電所の出力と有効落差の関係 (19)
2016年12月22日陸側遮水壁の状況(第二段階)(PDF 9.22MB)PDF (20)
報道配布資料|東京電力 中の「福島第一原子力発電所構内排水路のサンプリングデータについて 」
(21)
平方根 - Wikipedia (22)
第49回特定原子力施設監視・評価検討会 | 原子力規制委員会 (23)
中長期ロードマップ|東京電力 (24)(23)中の「中長期ロードマップの進捗状況⇒2016年12月22日(廃炉・汚染水対策チーム会合 第37回事務局会議)」
(25)(24)中の「
【資料3-1】汚染水対策(25.2MB) 」
(26)(24)中の「
【資料3-2】使用済燃料プール対策(19.4MB) 」
(27)(23)中の「2015年6月12日(廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議第2回)⇒
(資料1)中長期ロードマップ改訂案について(133KB) 」
(28)
<福島第1>3号機燃料取り出し 18年4月以降 | 河北新報オンラインニュース (29)(24)中の「
【資料3-3】燃料デブリ取り出し準備(4.05MB) (30)
めげ猫「タマ」の日記 トラブルいっぱい福島原発(12月2週)―デブリの冷却が止まる― (31)
保全計画は未策定 第一原発重要設備 | 県内ニュース | 福島民報 (32)
福島民報 (33)
第二原発廃炉強く要求 4度目意見書県議会が可決 東電、判断言及せず | 東日本大震災 | 福島民報 (34)
第二原発を当面存続 東電石崎副社長 第一廃炉の後方支援に | 東日本大震災 | 福島民報 (35)
ふくしまイレブンエッセイ - 福島県ホームページ (36)
安全が確認された農林水産物(公開用簡易資料) - 福島県ホームページ (37)
アピタ会津若松店│「イイこと、プラス。」 アピタ・ピアゴ
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2016/12/24(土) 19:53:03 |
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